巨大なトレンドの背後にあったのが、大英帝国←アメリカヘという「覇権移行シンドローム」だったのだ。 太陽が沈むとき、巨大な闇が訪れる。
帝国が沈むとき、経済に暗黒時代が訪れる。 その結果、相場が血に染まるのである。
世界中を照らし、世界を支配するほどの覇権大国に黄昏が訪れるとき、次なる新興大国(いまの中国?)の経済に〃異変″が起こる。 前回、覇権が大英帝国←アメリカに移ったとき、世界は政治的にも経済的にも暗黒時代を経験させられた。
第一次世界大戦が襲い、束の間の平和の後に第二次世界大戦という未曾有の大惨事がやって来た。 しかも、両大戦の問には世界大恐慌という信じがたい経済パニックまで天から降って来たのだ。
そして不思議なことに、いちばん経済的にひどい目に遭ったのが次の覇権大国・アメリカだった。 三世紀、アメリカという戦後世界を支配し続けてきた巨大な太陽が沈もうとしている。

まさにそのとき、中国が世界経済の中に朝日のごとく登場し、巨大なバブルが巻き起こっている。 数十年ぶりに「覇権移行シンドローム」が暗闇のかなたから登場してきたのだ。
信じられないほど破壊的な力が黒雲のごとく世界に押し寄せてきている。 歴史をひもとくと、イタリアでルネッサンスが起き、西洋が世界史上に興隆して以来、覇権はほぼ一○○年ごとにベネチア←スペイン←オランダ←大英帝国←アメリカという順番で移行してきたことがわかる。
かなり現在の資本主義に近い形になったオランダ以降、この覇権の移行に伴って次の新興大国で大暴落〜大不況というパターンが正確に繰り返されてきた。 相場はピーク時の一○分の一近くにまで下落し、その国の金融システムを窒息寸前の事態にまで追い込んでいる。
一度の例外もないという歴史的事実はあまりにも不気味である。 しかも、次の覇権大国(いまの中国?)が最もひどい目に遭うというパターンが今回も繰り返されるとすれば、やはりあの中国が大変な目に遭うのだ。
歴史はまったく同じようには繰り返さないが、似たようなパターンを伴って繰り返すのである。 もちろん、GDPをはじめ現時点での国力でみればまだまだ先進国に及ばないが、その異常なまでの成長ぶり、外交能力を含めた世界への影響力という点で、いまや世界中が中国に一目置き、さらには中国になびいている。
世界の貿易はアメリカの実体経済の勢いが減速する中、日本やEUとの間の輸出入を確実に増やしている。 いまや中国は輸出も輸入も日本にとって最大の取引先なのだ。
また、投資の世界でも「中国に投資しないヤシはバカだ」と言わんばかりに全世界が中国にのめり込んでいる。 この状況は非常に怖い。
世界中が中国に投資しているということは、中国がつまずけば全世界がひっくり返るということを意味する。 しばしば指摘されるように、中国株投資は決してリスクの低い投資とはいえない。
投資に情報は不可欠であるが、中国の情報をそのまま鵜呑みにするのは非常に危険である。 政府の隠ぺい体質もさることながら、企業から発表される業績や財務内容の信頼性は高いとはいえない。

不祥事が絶えない上場企業への不信も根強い。 中国の法制度は、まだまだ未整備なのである。
しかも中国の経済成長は決して健全なものとはいえない。 国内にあふれた投資マネーは株式や不動産などに向かい、資産インフレを引き起こしている。
それらの資産価格は経済の実態以上に上昇し、やがてバブルをもたらす。 空前の株ブームの中、個人や企業が借金をしてまで株を買っている。
設備投資や住宅購入の資金と偽って銀行から金を借り、その金を株につぎ込んでいる。 上場企業の多くが財テクに走る。
株価が上がることによって収益が増加し、それにより株価が高騰するというバブル期ならではの「危うい好循環」が見られる。 この循環がひとたび逆回転すればすべてがクラッシュする構図だ。
いずれ中国へ投資したほとんどの人間が大損し、最悪は世界恐慌に発展する可能性も十分考えられる(どころか、そうなるであろう)。 私は以前、上海で次のような話を聞いた。
あるおばあさんが足を悪くしてしばらく寝込んでいた。 足がそんな状態だったものだから、彼女は半年間外出することができなかった。
半年後、足はだいぶ良くなり久しぶりに外の空気を吸いに家の外に出ると、彼女は仰天した。 町の風景がまったく変わっていたのだ。

古い家々はどこかに消え、目の前を高速道路の高架橋が横切っていたのだ。 彼女の記憶にある風景はそこにはなかった。
彼女は思わず絶句した。 「どういうことだ〃私は一体どこにいるのか?」と。
七〜八年前、上海の開発がすさまじい勢いで進んでいた頃の実話である。 日本の戦後、東京オリンピックが開催された当時でさえ、これほど急激な開発はなかっただろう。
共産党の主導で有無を言わさぬ立ち退きを強行できる中国と、民主主義国家の日本ではやはり国家体制の違いはあるということか。 そうだとすれば、中国の国家体制そのものが、中国バブルをより大きく膨らませているともいえるだろう。
すべてが共産党のコントロール下にある中国では、日本のようなバブルは起こりえないという声も耳にする。 どんな国でもバブルは膨張しうるし、膨張したバブルは必ず弾けるものである。
中国だけ例外といくはずもなく、むしろ中国バブルの将来は単なるバブル崩壊ではすみそうにない気配すらある。 実際、市場経済化が進む一方で政治は共産党一党独裁という体制の矛盾が、国内に様々な歪みをもたらしている。
中国は株、不動産などの資産バブル以外にも実に多くの内政問題を抱えている。 それらの問題が中国バブル崩壊のきっかけになる可能性すらある。
問題の一つは国内における極端な経済格差である。 特に沿海部と内陸部との格差は年々広がるばかりである。
たとえば、上海などの都市部では住民の可処分所得は劇的に増え、市民の生活水準も向上を続けている。 一等地の高級マンションに住む富裕層のなかには、何億、何十億円という財産を持つ資産家も少なくない。
だが、その一方で、内陸部の農村地帯には年収数万円で暮らす貧困層が存在している。 豊かな沿海部の人口四億人に対して、内陸部の人口は九億人と圧倒的に多い。

中国の農村部住民の所得は、都市部住民の三分の一程度である。 汚職や賄賂も国民の不満の種である。
親民政治を掲げてスタートした胡錦涛政権は腐敗撲滅を声高に叫ぶが、急速な経済発展により金と権力が結びつく機会はますます増え不正は一向に減らない。 二○○五年の一年間で、約一万一○○○人もの党員が横領や贈収賄により処分されたという。
OECD(経済協力開発機構)のレポートによると、中国ではびこる贈収賄はGDPの三〜五%という規模に達するという。 政府調達や建設プロジェクトなどにおいて契約を獲得する見返りに企業が政府関係者に贈るといったキックバックが大半で、GDPの一・五%に相当する規模と推計している。
また、政府や国営企業の経費で買い物をする人間も後を絶たない。 国有企業の職員などがデパートなどで私的な買い物をする際、領収書を適当に書き換えさせて会社に請求してしまうのだ。
店側にしても高額消費をいとわない彼らは上得意客だ。 特に飲食業界では、全国の飲食業界の売上高のうち、約二割を公金消費が占めるという。

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